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コラム

【マーケティングせつないとき】選手よりミスターが主役の巨人戦を見たとき(2005.07.06)

「待ち望んでいた笑顔。」「球場がパッと明るくなった。」「スタンドが大興奮。」等々テレビ・新聞には賛辞が踊ったが、違和感を感じたのは私だけだろうか?
ミスターこと長嶋茂雄氏が東京ドームでの巨人―広島戦を観戦し、脳梗塞で倒れて以来488日ぶりにファンの前に姿を現した。確かに笑顔だったが、まひの残る右手をポケットに入れ、足を引きずっての歩行。野球は最後までドラマと言っていた同氏が8回で球場を後に。「ヤングな若さ」「左のサウスポー」と連発していた頃の面影はなく、かなり無理している様子で、とてもハッピーな気持ちにはなれなかった。
ビデオリサーチによると、6月の巨人戦視聴率は約10%で、月別の記録が残る1989年以降、6月では最低。これで4月から3カ月連続で月別過去最低を記録。今季の目玉だったセ・パ交流戦の巨人戦の視聴率平均も12.2%(関東地区)とふるわない。一方、先日深夜のサッカー・コンフェデ杯「日本×メキシコ」は13.3%女子バレーボールワールドグランプリ「日本対ブラジル」は21.8%。
国民的スターであるミスターの復帰で一気に不振の視聴率を挽回しようというのが、中継する日テレの思惑だったのだろう。しかし期待とは裏腹に、同試合の視聴率13.5%で特段の「長嶋効果」は見られなかったという。
───当たり前だ。確かに昭和のスター長嶋氏の復帰は多くの人に元気を与えてくれる。しかし、それは長嶋氏の功績と人間的魅力を理解できる人であって、今の野球の魅力とは無関係だ。ミスターの現役時代を知らない若い世代は、ほとんど関心がないはすで、お叱りを承知で言えば、安藤美姫の始球式の方が見たいに決まっている。
選手より観覧席を主役にして視聴率をとろうとすること自体が情けなく、巨人軍の衰退を象徴している。
90年代まで巨人戦は凡そ20%を上回る高視聴率で、メディアにとってもおいしいコンテンツだった。だから放映権も取り合いになる。メディアが伝える→伝えるから人気が出る→人気だから視聴率が上がる→だから広告価値が上がるという好循環ができていた。しかし、2000年以降、特にイチローメジャー移籍の2001年から視聴率低下は顕著に。そして今年は去年の12.2%というワースト記録を確実に更新しそうだ。
───当然だ。「巨人・大鵬・玉子焼き」のように画一的な価値観の時代は遠い昔に終わっている。プロ野球が「国民的スポーツ」で、お茶の間では巨人戦の中継、子供はみんなGの帽子をかぶり、アニメでは巨人の星、侍ジャイアンツ、ドカベン等野球ばっかり。そんな時代にもう戻れるわけはない。
野球・スポーツに限ったことではなく、情報が行き渡ると消費者は賢くなり、価値観が多様化する。
そんな中、野球一筋、巨人命という一部のいわゆるロイヤルカスタマーを除くと、多くは浮気症の浮動客だ。私も含めこの層はスポーツ好きではあるが、それは野球でなくてもいい。つまり観るスポーツには、「ワクワクする」「ドキドキする」「感動する」等のベネフィットを求めているわけで、それを満たしてくれるものであれば何でもいいわけだ。そして、他にもっと面白いスポーツあることに気付いてしまった。
『絶対に負けられない』緊張感がある日本代表のサッカー、女子ゴルフ、バレー、テニス、水泳等、総じて世界を相手に戦う姿に心を打たれる。が、プロ野球にはそれがない。気のせいか必死さも感じられず、感動が生まれない。感動を与えられる選手は皆大リーグに行き、そっちのニュースは気になる。
巨人戦は、製品のライフサイクルで言えば、とっくに成熟期から衰退期に入っている。
もう視聴率は上がらないだろうし、巨人戦中継のコストパフォーマンスが悪いとなれば、メディア側も離れていく。早晩、巨人戦のテレビ中継はなくなり、現在の広告モデルは破綻するであろう。
マスのメディアでマスの人気をとるなんてことは考えずに、浮動客が他のスポーツに逃げるのは仕方がないということを前提にしても成り立つビジネスモデルを築かないといけない。新規顧客の獲得と、既存顧客のリピーター化、そして自らお金と時間を使って球場に足を運ぶ固定客のロイヤルカスタマー化と、マーケティングの教科書通りに丁寧に作戦を練り実行することで、適正規模での存続は十分できるはずだ。
新規参入した楽天の戦績は惨憺たる状況だが、仙台は盛り上がっているらしい。強いと盛り上がるのは別物というのは過去のタイガースが実証している。「地域密着」ヒントはそこにあるような気がする。ミスターはとにかく無理せず、完治してからゆっくりとメディアに姿を現してほしいものだ。(鈴木一)

*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】90号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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