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コラム

【マーケティングせつないとき】100円だからってそんなに食べられないとき(2005.06.22)

報道によると、日本マクドナルドは通期利益予想を3割減に下方修正し、2年ぶりの減益となる見込み。集客力を高めるため、4月中旬から打ち出した新メニュー「500円バリュー」、「100円マック」などの低価格戦略が裏目に出て、来店客数は増えたが、安いメニューだけを買う客が予想外に多く客単価が減少。おまけに客数増に対応するための人件費等がかさみ、利益を圧迫したという。
このような話、前にもあった。同社は2000年にハンバーガーの価格を平日半額にし「デフレ時代の勝ち組」と呼ばれたが、それも束の間、頻繁な価格変更などで客が離れ、02年12月決算で、29年ぶりの赤字に転落した。その後価格戦略を見直し、黒字に転換したばかりだったのだが。
アップル出身の原田社長は、低価格で来店客数を増やす戦略は間違ってないというが本当にそうだろうか?
マックの低価格戦略の最もまずかった点は、既存商品の価格をそのまま下げることで、価格とそれに見合う価値に対する消費者の不信感を生んでしまったことだ。100円になったから食べるという人は、その価値を100円と釣り合っていると認識しているわけであって、100円を超えたら高いと考える。かと言って、100円ショップのように、安いからいっぱい食べようとはいう具合にはなかなかならない。
利益を伸ばす要因は、販売量、コスト、価格の三つしかないと言われているが、コスト削減余地が限界まで小さくなっている今日、中でも「顧客価値志向」のプライシング(価格設定)の重要性がますます高まっている。現在の消費が、「こだわりの高価格」と、「間に合わせの低価格」にニ極化するなか、提供側も中途半端は許されず、そのどちらかをはっきりしないといけない傾向にある。
マックとよく比較されるモスバーガーは、3月に1000円という恐るべし価格のハンバーガー「匠味十段」を投入したが、どうやら好調らしい。マックの100円バーガーのなんと10倍だ。
モスバーガーはもともと「安くはないが、味と品質がいい」を売りにして、顧客もそれを求めている。それゆえ、美味しいもの、高品質なものを提供すれば、それなりに高くても顧客に受け入れられる。その方向をより明確にするため、モスは「脱ファストフード戦略」の「緑モス」や、新メニュー等高級・付加価値路線を推し進めている。
ではマックも付加価値路線へ転換してみては?・・・それは無理だ。マックは、「安いよ」、「早いよ」というのが顧客との「お約束」になっているのでそこを外すわけにはいかない。高級路線の「マック・グラン」もマック内では高級かもしれないが、中途半端でインパクトに欠ける。また過去に都内で展開をしかけた高級業態「マクドナルドダイニング」が閉鎖されてしまった。
ポジショニング、つまり顧客は何を期待しているのかが、マックとモスは全く異なる。
より具体的には、モスバーガーへは「しっかり食事をする」ために入り、定食屋やカジュアルレストランとの比較になるが、マックは「時間がないのでとりあえず安く腹を満たす」ために入るからドトールや立ち食いそばとの比較となる。店に入るモチベーションが異なるのだ。そういう点で、モスとマックは土俵が異なり、既に競合ではないと言える。
長いデフレの下で、低価格訴求が消費者にウケているものの、安いだけではいずれ客離れを起こす。ユニクロは、低価格の割に品質がよく、満足感とバランスしたからこそ消費者の支持を得たわけだ。
マックは、価格訴求の消耗戦の土俵を自らつくってきたのだから後戻りはできない。それゆえ「間に合わせ消費」であることは受け入れながら、「でも、結構いいじゃない。」をどう作っていくかがポイントとなろう。具体的には、もう一個食べてみたいと思わせる「バリュー」な新メニューだろうか。
それが出たら、100円玉いくつか持って出かけてみよう。(鈴木一)

*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】88号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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