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コラム

【マーケティングせつないとき】「滝沢エクスペリエンス」が記憶となってしまうとき(2005.03.23)

いつもは特に意識はしていなくとも、いざなくなるとなると寂しいものがある。
年配層を中心に、ビジネスマンや文化人らに打ち合わせ場所として愛されてきた老舗喫茶店「談話室滝沢」が3月末、都内4つの全店舗を閉店し、45年間の歴史に幕を下ろす。
私は決して滝沢ファンではなかったが、打ち合わせ場所として指定されることもあり何度となく利用した。閉店のニュースを知り、あらためてイメージを刻んでおこうと足を運んだ。
抹茶系カラーに統一された日本庭園風の内装、ゆったりとしたソファー、ホテルのフロントのようなレジ、静かなBGM、照明の蛍光灯・・・。すべてがあわさって時間が止まったような、何ともいえない不思議な空間をつくり出している。
また、コーヒーなどのドリンクはすべて1000円で、ケーキをつけたセットが1100円という価格設定には最初は面食らったものだ。しかし、午後1時までのドリンク一杯おかわりサービス、200円引きの「謝恩券」等、繰り返し使うと良心的な価格であることがわかる。
そして、何といっても滝沢のアイデンティティは、接客だ。
伝票には「清楚で落ち着いた雰囲気を大切にして、広々としたくつろぎのスペースに楽しい語らいの場を提供して参りたいと考えています。」との理念があるが、それが掛け声だけではなく、きっちりと実践されている。店に入ると、グレーの地味なスーツの女性が「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。」と迎えてくれる。席への案内、注文のとり方等すべてが清楚かつしとやかで、さりげないなかにも隙がない。
この礼儀正しい接客や身だしなみは、ウエイトレスの全寮制による教育から生まれたらしいが、その全寮制も時代に流れで6年前に廃止され、今では8割がアルバイトバイトだという。
これら「談話室 滝沢」を構成するハード、ソフトは店名の通り、コーヒーを飲む場所ではなく、あくまで「談話をする場所」ということを軸に編集されている。それは、価格に場所代が含まれているというような単純なものではなく、「滝沢で過ごす経験」を提供していると言える。スターバックスが「スタバでコーヒーを飲むというスタバエクスペリエンスを売る」というコンセプトで成長してきたが、滝沢ではずっと前からそれを実践してきたのだ。
ドトールやスタバ等に代表されるセルフ型のカフェが主流の今、滝沢は他とはポジションが全く異なる。
閉店の理由は明らかにされていないが、経営不振ではないという。「サービスが低下しないうちに。」とのことだが、引き際の美しさが惜しむ声をより大きくする。
世の中には変わって欲しいものと変わらないでいて欲しいものがある。「スピードと変化への対応」がキーワードである今だからこそ、忘れがちな大切のものを思い出させる滝沢が消えてしまうのは惜しい。
「閉店するんですって。とても残念だわ。」 「はい。申し訳ございません。」
隣の席で年配の女性客とスタッフとの会話。
滝沢は消えてしまうが、「滝沢エクスペリエンスの記憶」が薄れないうちに、「滝沢DNA」を受け継いだ次の「談話室」が出てきて欲しい。(鈴木一)

*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】76号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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