銀座の某画材屋さんに寄ったときの話。狭い割にはスタッフが多く、正直入りやすい店とは言えない。
店に入るなり「荷物はこちらへどうぞ。」と笑顔で案内され、荷物をおろした。
企画書作成用のスケッチブックでも買おうと奥の棚を物色していると、今度は「こちらにお茶入れました。よろしければどうぞ。」と。
別段高価な買い物をしに来たわけでもないので恐縮し、「ありがとうございます。」とだけ返し、お茶には手をつけなかった。さらには鉛筆を見ていると「どうぞ試し書きしてください。」とメモ紙を差し出された。
こういう接客、いつもだったら、「買わずには帰さないぞ。」という意図が見え見えで、この時点で怒りさえ覚えているところだ。しかし、この日は不思議と鬱陶しさを感じず、すべてにおいて「ご親切にありがとうございます。」と素直に反応してしまっていた。
また東急ハンズでの話。金属製の切文字を購入して支払を済ませた後、レジのおじさんに「接着剤はどちらですか?」と尋ねた。するとその男性は「別フロアにもありますが、こちらでも対応できます。」と、レジから離れて話を聞いてくれた。貼り付ける相手は金属板であることを伝えると、すぐに奥のコーナーから接着剤を三つ選んできて、それぞれの特徴や乾くまでの時間、作業の手間等を事細かに説明してくれた。少しのやり取りの後、「なるほど。だったらこれがベストですね。」と勧めてくれたのは、一番小さく安いもの。「足りないといけないので二つください。」と尋ねると、「いえ、先程の6文字であればこれで十分です。」ときっぱり。最後に、接着作業時の注意点やはがれにくくするためのコツなどを丁寧に説明してくれた。
その語り口調は生き生きとしており、表情に「いいこと教えてあげますよ」という親切心に満ちていた。私は数百円の接着剤をここで買って本当によかったと思った。
コンビニ、セルフレジ、ネット販売・・・。購買の現場から人間の姿が消えていく話が多い。
「買い物客は接客されることを嫌っている。」という前提のもと、「当店ではお客様にゆっくりと買い物をしていただくために、店員は声をかけません。」という看板が秋葉原の家電店に登場したのが、確か20年以上前。
その後「接客しないことが顧客サービスだ」というのが主流となり、IT化も手伝ってますます販売の無人化が進んだ。
その大きな流れを否定するつもりはない。
しかし、買い物をする際、心のこもったもてなしにあったかい気持ちになったり、プロのアドバイスにうれしくなったりする人間の心理が変わっていないことも事実だ。販売無人化の流れの中で、私たちは素敵な接客を受けることの喜びを忘れつつあるのかもしれない。
人の心を動かすことができるのはやっぱり人。
「接客の心」「商いの心くばり」「サービス精神」そういう古くさい言葉の本当の意味を、時には真剣に考え直してみる必要がある。
*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】70号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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