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コラム

【マーケティングせつないとき】ものづくり魂が一つ会社を去ってしまうとき (2005.01.12)

年末のある酒席で素敵な人とご一緒した。
良い話なので企業名を出させていただくが、麺の老舗企業「シマダヤ」で「麺づくり一筋」の技術・製造畑を歩み、まもなく引退されるというAさんだ。

Aさんはニコニコと親しみやすく、人に緊張感を与えないキャラクターがまずもって魅力的なのだが、それに加えて、麺についてのさまざまな話は実に興味深かった。
「冷凍うどん」というのは、何か手抜き的な印象があったのだが、「うどんは冷凍との相性がよく、最もおいしい状態で提供されているので実にうまい、特に『稲庭風うどん』は絶品という話。シマダヤの麺は品質基準がとても厳しく、安全・安心度はピカイチという話。新製品のモニタリングを、多くの友人に何度もお願いして、味の感想をしつこく聞いてきた話。
また、とある居酒屋での宴会で、出てきたうどんが、調理の仕方のせいであまりにも味が悪く、店の人に正しい調理法をアドバイスをした(ちなみにその麺は他社製品)というエピソード。
その他、うどんだけでなく、「更科」と「やぶ」のそばがどう違うのかにはじまり、麺全体の楽しい薀蓄を、素人の私にも理解できる言葉でいっぱい語ってくれた。

麺について、熱っぽく語るそんなAさんは実に輝いていた。

シマダヤのサイトによると、コーポレートメッセージは「おいしい笑顔をお届けします。」そして、「おいしい笑顔は、シマダヤ社員一人一人が作るシマダヤブランドの心です。」と続く。Aさんの話を聞いていると、これらの言葉が単なる「かけ声」ではないことが伝わってくる。

自社製品を愛することは基本中の基本と言われるが、決して簡単なことではない。会社を離れると他社製品を使っていたり、また自社製品を買うのは社員販売で安く買えるからなどという話を聞いたりすることもある。「愛せ」と言われても、利害関係を除けば、「偽りの愛」だったりする。
そんな中、Aさんは一点の曇りもない。ましてや、もう引退目前で、営業的な義務感から話しているわけではない。こういう人が、企業の文化と伝統を築き上げているのだと感激すら覚えた。

特にある程度の規模の企業(メーカー)では、つくる人(製造)と売る人(営業)が分かれているのが普通で、顧客との接点の多くは川下の「売る人」にあることが多い。しかし、実際には「つくる人」が、手塩にかけた自社製品について熱く語る言葉にこそ、顧客の心を動かすエッセンスがつまっているのかもしれない。
そういえば、以前勤務していた下着メーカーで百貨店営業をやっていた頃、直接顧客を接する販売員の女性が、自社製品の工場見学に出かけた後、商品に対する愛着が格段に高まり、売上がアップして、返品率が大きく下がったことを思い出した。

Aさんには、ものづくりの原点を勉強させてもらった。
あれ以来、私はスーパーで買ってくる麺はシマダヤブランドを選ぶように、家内に言っているし、知人との宴会時にも何人かにはシマダヤの麺を宣伝している。
あれっ、Aさんには、マーケティングコミュニケーションの原点も勉強させてもらったのかもしれない。

*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】66号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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