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コラム

【マーケティングせつないとき】職人芸的ワン・トゥ・ワン接客を見たとき (2004.11.17)

寒くなってきたこの時期。恋しくなる料理の一つがおでんだ。
オフィスの近くに美味しいおでん屋があり、この時期になるランチに利用する。
晩は一度も行ったことがないのだが、知人の話によるとやや高いがかなりはやっているらしい。

いかにもという女将さんが切り盛りしていて、おでんを盛り付けるのは女将さんだけに許された仕事のようだ。そしてもう一人、クラブでいうと「チイママ」といったところのおばちゃんがいる。
このおばちゃんの話。ちょっと場面を想像していただきたい。

昼12時過ぎると混んでしまうので、その日は少し早めに入った。
私がおでん定食を食べていると、一人の年配の男性客が入ってきた。
おばちゃん:「いらっしゃい。お一人様?」
客:「いや3名だよ?あと二人、すぐ来る。」
おばちゃん:「はい。ではこちらへ。」
と、まだ空いているカウンターの席に案内。
そしてすぐに続けて、厨房に向かって、
おばちゃん:「3名さまー。おでん二つにお刺身一つ。お一人様分はごはん少なめで。」
ん?一瞬耳を疑った。
今座った男性客は、まだ注文をしていない。そして、あとの二人はまだ店にも来ていない。それなのに注文を予測して、いや断定して厨房に指示する。
ほどなく、残りの二人が店にあらわれると、おばちゃんの方からそろった3名に確認。
おばちゃん:「おでん二つにお刺身一つ。お一人様分はごはん少なめでよかったかしら?」
客:「うん。それでお願い。」

す、すごい。見事正解。
「いつもの一つ。」と言って、決まりもんが出てくるというのならまだしも、頼んでいないどころかまだ店にも現れていないお客様の注文を言い当てているのだ。この3人はかなりの常連に違いなく、おばちゃんには、最初に入った男性が誰と来るのか、そしてそのそれぞれが何を注文するのかをお見通しだったわけ。これぞ職人芸。

他にもこの店では、常連とおぼしき客には「おでん。何しましょう?」と聞いて、中身を選ばせるが、そうでない客には何も聞かずおまかせのものを出す。また、昼に来た客が晩の宴席の予約をしている様子も見かける。

利益の8割は2割の客から得られるというパレートの法則。だから、この2割を大事にして関係性を強めなさいというのは、CRM(Customer Relationship Management)・ワン・トゥ・ワンマーケティングでも原則となっている。そういう点からはこの店は正しい。

しかし、CRMやワン・トゥ・ワンマーケティングは、前提としてITを活用し、顧客と提供者がメール等1対1の場面でサービスを受けることが多い。それに対して、このお店の場合、優良客(=常連)に対する特別扱いを目の前で次々と見せつけられてしまう。
私のようにランチしか寄らない客は、階層化すると悪い客には違いないのだが、それにしても粗末にされている感と肩身の狭い思いは否めない。
常連を大事にするのならもう少しさりげなくして欲しいという気がするのは、単なるひがみだろうか?

一部の顧客の満足が、他の客の不満足を引き起こすこともあるということは念頭におかなければならない。もっと言えば、前述の客も、今日は違うものを注文したかったがおばちゃんに言われたからそれを頼んだのかもしれない。
お店と顧客との距離感のバランス。これは難しくて重要なテーマだが、常連だから優良客だからとあまり強引に距離をつめるやり方は支配的で感心できない。一定の距離をおいた上でのコミュニケーションが継続的ないい関係性を保つポイントだと考えている。

まあ、そんな難しいことは考えずに、この冬美味しいおでんを求めてまた何度も通うだろうが。

*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】59号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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