イチローがタイ記録をつくった打席、私はたまたま通りかかった街頭テレビで、歴史的瞬間を目撃することができた。一塁上のイチローをたたえる観客席のスタンディングオーベーションには、感激で体が奮えた。
262本という大記録に日本中が歓喜し、各報道は内閣改造よりイチロー。多くのネットショップから「イチロー新記録セール」等を銘打った「あやかりメール」がたくさん届く。
さて、かくいう私も、「マーケターとしてイチローから何が学べるのか?」
について、興奮さめやらぬうちに、イチローの一流を一応考察してみたい。
第1に、環境への適応力。
練習方法や野球スタイル以前に、言葉、文化、生活習慣などすべてが異なる環境における苦労は並大抵ではなかったはずだ。そんな中で移籍一年目からリーグ首位打者を獲得するということは、環境適応力がずば抜けているとしかいいようがない。そしてその適応力は、単に与えられた環境にあわせたり、迎合したりするのとは違う。決して群れるのではなく、メディアのインタビューにもあまり登場せずに、ある種とっつきくい印象を与えながら、しかし確実に環境変化に適応していく姿は、市場の環境変化にどう対応すべきかの示唆を与えてくる。余談だが、この面においてイチローと中田英寿と重なる印象がある。
第2に、自らの強みを生かしたポジショニング。
イチローは「体の大きさはあまり意味がない。」と話している。パワー、豪快さ、派手さなどが脚光を浴びる大リーグにおいて、ホームランや長打をテーマからはずし、野手の間を抜くということを課題に集中した。結果、「内野ゴロはアウト。」という常識をも覆し、安打を量産。巧さ、速さ、美しさという新しい「価値あるポジション」を大リーグに定着させた。独自のポジショニングにより、新市場を創造したというわけだ。
第3に、そのポジションで勝つための具体的武器。
オリックスの2軍時代に編み出した「振り子打法」がそれだ。インパクトに集中する独特なスイングは、どうやら形だけでは他者は真似できない秘密兵器になっている。
第4に、目標を達成するためのあらゆる「準備」。
イチローは、記録を塗り替えた試合後のインタビューで、「とんでもないことを達成するには、ちっちゃなことの積み重ねを行うこと以外に道はないとあらためて感じた。」と。この当たり前のコメントには重みがあった。
彼は「練習」と言わずに「準備」という言葉を使う。同じことのようだが、「予め備えておくこと」の意味あいである「準備」には「成果」への執着が読み取れるし、実際積み重ねた準備が常人とはレベルが違うことだけは容易に想像できる。
第5に、基本をしっかり。
イチローは、ストレッチングなど、実に基本的なトレーニングに時間をかけるそうだ。また、練習だけではなく、道具の手入れや、バットを投げたりしないなど中学生が教わるようなことときっちりと実行しているとのこと。「当たり前のことを当たり前に。」これは偉業を成し遂げたすべての人のベースに共通しているようだ。
第6に、目標に向かって努力する不撓不屈の精神力。
誰にでも、どの企業にもこうなればいい、こうしたいという理想や目標がある。しかし、それを常に強く意識し続けることは容易ではない。目標に執着し、それを成し遂げるために具体的な行動を継続する忍耐力はもとより、プレッシャーとまっすぐに向き合い、逃げずに精進するイチローの精神力は尋常ではない。彼は野球テクニックでも天才なのだろうが、それにも増して、己に克ちメンタルなコントロールができることにおいて天才な
のだと思う。
そして最後に、何よりも「好き」。
「現在の自分の原動力は、野球が好きだから少しでも多く打席に立ちたいという気持ち。」というのもイチローのインタビュー談話。これも当たり前なのかもしれないが、好きで始めたことも、それが仕事になってしまうと、とかく「好き」という気持ちを忘れてしまい、ややもすると苦しさが勝って嫌いになってしまうなんてこともある。売る側に立った途端、顧客の気持ちを忘れてしまうなんていうのも似たようなものだ。好きだから頑張れる。頑張れるからいい成果を生む。これが実行できれば仕事人冥利に尽きる。「好き」であり続けること、これがすべてのパワーの根っこだ。
さて、いくつのことを盗めるだろう。イチロー的エッセンスを取り入れて、この機会に私自身もネジを巻き直したいと思っている。
*この記事は、週刊で発行するメルマガ【マーケとマネー〜せつないとき】53号に掲載したものです。ご興味のある方はこちらからご購読ください。
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